杉本博司 絶滅写真展

皇居のそばに建つ、谷口吉郎設計の国立近代美術館。こちらで開催されていた杉本博司の絶滅写真展を見てきました。

絶滅写真とは、杉本が撮り続けてきた高解像度の銀塩写真の技術がデジタルに置き換えられた時代、絶滅危惧種として存在する最後の風景を表しています。

 

 

 

地殻変動によって森を失ったアフリカ大陸の東部で初めて2足歩行の動物が現れる。人類の祖先であるその動物をとらえた写真

いや、そんなはずはない! だって、その時代に写真というものはなかったのだから・・・。 もしかすると、タイムマシンに乗って現代人が過去を遡って撮影してきたのでは?

そんな想像をしてしまうほど、リアルな写真です。

実は、これはアメリカの自然史博物館にあるジオラマで、もちろん本物ではありません。しかし、それを高解像度の写真として切り取った瞬間に、「ニセモノ」が「ホンモノ」に見える(化ける)という不思議な感覚が現れます。

まさに、この写真は、ただ物体を撮影しただけのものではなく、我々を過去へと誘うタイムマシンなのです。

 

 

 

北京原人が、今まさにハイエナに襲われる瞬間!

これが本物ならばとんでもないスクープ写真ですが、現代人がクマに襲われることを考えれば、虚像の中にも時代を超えた真実味を感じさせます。

 

 

 

映画館で上映される作品を1本分の丸々2時間、シャッターを開けた状態で撮り続けた「劇場シリーズ」

映画のストーリーは白く発酵する光に還元され、劇場の空間に光の余韻だけが残る。

この作品は、2時間という時間の詰まった蓄積でもあり、一瞬に圧縮された時空間とも言えそうです。

 

 

 

海と空、そしてそれを分ける水平線、世界各地の水平線を撮影した海景シリーズ

 

 

 

マーク・ロスコのような上下に分割されただけのシンプルな構成がとても抽象的です。

実際には、海と空だけしか映らない写真を撮るにはかなりの忍耐が必要だったそうで、不純物のない自然風景は悠久の時間を想起させてくれます。

 

 

 

今はなきニューヨークのワールドトレードセンター

日系アメリカ人建築家ミノル・ヤマサキの設計になるロウアー・マンハッタンのアイコンであったこのビルは、9.11の悲劇によってこの世から失われました。

おぼろげに見えるこの写真は、ビルの亡霊を写し出したものなのか・・・

 

 

 

最も有名な20世紀の建築といえば、ル・コルビュジエのサヴォア邸

純粋な幾何学立体を目指したデザインは、ピンボケでもその輪郭だけでそれとわかります。

あえてピンボケにすることで、デザインの本質をあぶり出そうとした、との解説がありましたが、実のところは、近代建築のもつ白々しさを感じて、「お前さん、そのデザインはボケてるぜ」と言いたかったのかもしれません。

写真という視覚的な表現を通して人間の心理を揺さぶる作品は、1枚の平面では想像できないような奥行きを持っていました。