宇部の家、現況・劣化調査

宇部の家では、リノベーションに伴い耐震改修することが決まり
今回もグリーンデザインオフィスにお願いして
改めて現況の詳細について調査を行いました。
 
平面、高さ、各部材の寸法などの実測を行い
建物の歪みや部材の劣化状況、含水率など
丸一日かけて調べていただきました。
 
 
 
 
 
 
今回、また新たな秘密兵器が登場、
その名も「360度カメラ」
 
既存の建物にはかなりの情報量が詰まっていますが
図面が残っていない場合、それらをできるだけくまなく把握する必要があります。
しかし、限られた時間ですべての情報をチェックするのは大変で
また、見逃してしまう情報があった場合には再調査が必要になったりします。
 その手間を少しでも軽減してくれる頼れる武器として重宝しそうです。
 
 
 
 
 
 
一通り寸法を取り終えたところで
各部屋の床の傾きをチェックしていきます。
これによって建物の沈下状況を推定します。
 
 
 
 
 
 
これは柱の傾きを図っているところ。
各部屋の柱を測定したところ、予想以上に柱が傾いていることが判明。
土地の地形の影響もあり、家全体が同じ方向に歪んでいるようです。
 
 
 
 
 
 
床下も確認。
建築基準法ができる前の昭和初期の建設でもあり
柱は掘立て式ですが、どうもその後にレベル調整された痕跡があります。
 
これらの状況を総合的に検討した結果、
床下にジャッキを入れて、
家の傾きを修正していく方向で調整を進めることになりました。
 
 
 
 
 
 
構造の現場調査に合わせて、私は改修部分の現状をチェック。
写真は各部屋の床レベルの状況です。
 
右上の和室と左上の内縁は建設当時のままのようで敷居の高さ分の段差があり
手前中央の玄関ホールは、その後に改修されたようで、床レベルが異なります。
 
改修では、これらの部屋を一体化することを検討しており
床レベルの調整が必要になります。
 
その他にも、玄関や窓位置の変更など、
改修に伴って解決しなければならない検討事項をピックアップしていきました。
 
これらの情報の上に建主のご要望を重ね合わながら
この家にとっての最適解を探していきます。
 
 
 

ヘリテージマネージャー実践講座@旧山口電信局舎

ヘリテージマネージャー講座、
今年も座学と実測調査などでスキルアップを図ります。
今回は、山口市の旧山口電信局舎の実測調査を実施。
 
旧山口電信局舎は明治6年頃、
日本の近代化を進める流れの中で建設されました。
 
宝形屋根に下見張りの外壁、鎧戸のついた縦長の窓などで構成され
派手さはないですが、端正な洋館の佇まいを今に残しています。
 
この建物はすでに登録文化財に登録されていますが
関係者のご尽力もあり、売却に伴う解体の危機を逃れ
リノベーションを経て地域資産として再出発する計画があるそうです。
 
 
 
 
 
 
実測調査では当初の意匠を残す応接室から寸法を当たっていきます。
西洋では石を加工して作られることが多い窓枠ですが、こちらは木製で
西洋のオーダーを手本に職人が試行錯誤しながらアレンジしたことが伺えます。
 
 
 
 
 
 
応接室の隣接する和室
こちらはのちに住宅として使用する際に改修されたようで
オリジナルの姿とはかなり違うようです。
 
建物を残しながら住み継いでいくということは
このようなプロセスも現実としては十分あり得ることで
それ許容していくことも必要となります。
 
 
 
 
 
 
和室の外側は生活の都合か、それとも所有者の憧れゆえか
鎧戸から出窓(しかもアルミ既製品)に改変されています。
 
このような途中の改変をどう評価するかは
その時々に関わる人々の感性に委ねられますが
個人的には、建物の由来や歴史、意匠や素材の調和を考慮すると
アルミサッシュの形状と質感は調和という観点から違和感がるため
できるならオリジナルに戻していくことがベターではないかと思います。
 
 
 
 
 
 
当初の建物に増築された部分では
増築の接続部分からの雨漏りが確認されます。
 
建物を後付けする際には、丁寧にデザインと施工をしないと
長く使っていく上では、このようなリスクが発生します。
 
 
 
 
 
 
屋根からの浸水によって床下の湿度が上がり
隣室のたたみにまで影響が出ているようです。
 
木造の建物にとって、雨漏りやシロアリによる被害は致命傷で
長く使っていく上では、根本的な対処が不可欠となります。
 
所有者のお話では
今後のリノベーションではこれらの部分を含め
一旦骨組みまで解体して傷んだところを修繕されるようで
この建物に対する愛着と本気度が強く伝わってきます。
 
 
 
 
 
建物の寿命は、所有者の考え方次第で変わりますが
物理的な寿命は、手入れ次第で人間の寿命よりはるかに長いのです。
 
丁寧にデザインし、しっかりと施工された建物は
地域の景観として人の暮らしに定着して歴史を重ね
その地域に暮らしてきた人々の過去と未来を結びつける大切な存在となるのです。
 
なお、この建物を地域遺産としてまちを盛り上げる企画が
関係者によって10月初旬に行われます。
 
 

版築壁と薪ストーブ、そしてモルタル

臼杵の家、中庭の版築壁は型枠が解体されて
仕上がった壁が現れました。
 
まるで地層がそのまま現れたような壁は
土のリアルな素材感を持ちながら、抽象的なアートのようにも見えます。
 
とても存在感があるのに、不思議と静けさが漂う壁を前にすると
何か、心が穏やかになる感じがします。
 
 
 
 
 
室内には薪ストーブが据えられ
奥に見えるヴィンテージのカウンターとともに
この空間の濃度が一気に高まってきました。
 
 
 
 
 
 
水回りの空間は洗面台も含めてモルタル仕上げ
やや大きさを絞った窓からの光を受けて
陰影の深い表情がなかなか渋いです。
 
 
 
 
 
 
リビングのミニキッチンもモルタル仕上げ
職人さんが丁寧に仕上げてくれています。
 
こちらも軒が深く、抑制された光の中で
モルタルの質感が引き立っています。
 
 

四熊家住宅 進行状況

江戸時代の建築が残る四熊家住宅、
その長屋門の左側にある既存建屋を改修する今回の工事、
夏の間に屋根、外壁の改修がかなり進みました。
 
主役である長屋門に対し、脇役に徹しながら
主従のバランスや互いの間合いを意識して外観をデザインしています。
 
 
 
 
 
 
改修部分はの屋根は長屋門に合わせて軒を深くすることで
長屋門側から瓦屋根が連なり、調和のとれた外観になっています。
 
 
 
 
 
 
 
改修部分の妻側外観
腰壁は杉の板壁、上部はしっくい仕上で
こちらも長屋門との視覚的な連続性を意識した外観です。
 
 
 
 
 
 
改修部分内部は現代の生活に合わせたシンプルな構成です。
天井は杉板貼り、壁は珪藻土で
内部も長屋門との一貫性を意識した仕上としています。
 
 

版築壁工事その他

臼杵の家で版築壁の工事が始まりました。
まず、コンクリート基礎の上に型枠を建て込んでいきます。
 
 
 
 
 
 
真砂土にセメントと顔料を加えて攪拌。
水を加えながら最適の粘度に調合していきます。
 
 
 
 
 
 
攪拌された土は結構粗めで水気があまりないように見えますが
手でギュッと握って水分が染み出すくらいの粘度が最適なんだそうです。
 
 
 
 
 
 
顔料は4色あって少しずつ濃さが違うそうです。
これらを各層ごとに変えることで地層のような独特の表情が現れます。
 
ちなみに、どんな順番の組合せにするのか聞いたところ
返ってきた答えは、適当!(笑)
 
 もちろん、頭の中にはイメージがあるのでしょうが
経験からくる直感が一番間違いないのかもしれません。
 
 
 
 
 
 
攪拌された材料は粒の粗さもいろいろで
これによって自然な表情が生まれます。
 
 
 
 
 
 
 
材料を型枠の中に流し込んで、上から突いていきます。
 
 
 
 
 
 
型枠1段目をある程度突き終わったところで鉄筋を継ぎ足し
2段目の型枠を建て込んでいきます。
 
 
 
 
 
 
室内ではキッチンのステンレス天板の取付が進行中。
 
 
 
 
 
 
ヴィンテージの家具も準備が整ったところで定位置に据え付けです。
 
 
 
 
 
家具の中にコンセントを組み込むため
巾木部分に配線用の穴を開けています。
 
 
 
 
 
こちらはディスプレイ棚のしっくい仕上げの最終段階です。
 
 
 
 
 
 
一通り家具が据えられて室内の雰囲気がだいぶ整ってきました。
来週にはここに薪ストーブが搬入される予定です。
 
 
 
 
 
版築壁の工事2日目。
残り1.7mほどの高さをひたすら突いていきます。
 
ちなみに1層の厚さは10センチ前後、
全部で24層になるそうです。
 
 
 
 
 
中庭側から見た施行中の風景、
この時点で2/3程度まで上がってきました。
 
 
 
 
 
ついに上まで突き終わり、天端を均して終了です。
1週間ほどこの状態で置いたのち、型枠をバラす予定です。
 
少し大げさに言えば、世界でここだけにしかない唯一無二の版築壁、
出来上がりの表情が楽しみです。