
資生堂アートハウスをご存知でしょうか?
資生堂の文化施設といえば、東京銀座のギャラリーを知る人はいるかもしれませんが、このアートハウスは静岡県掛川市にある資生堂の工場施設の一角に設けてあります。掛川駅からも近いので、新幹線の車窓から一瞬だけ外観を見ることができます。
この施設は、建築家 谷口吉生41歳の時の作品で、建築学会賞を受賞した谷口の出世作として知られています。
しかし、建物は掛川という地方都市のしかも一企業の施設内にあり、平日しか開いていないため、一般の人にはほとんどその存在が知られていません。
自分にとっては、大学生の時に雑誌で見た建物の平面図の斬新さに衝撃を受け、いつかは見に行こうと思いながら、40年もの間、その機会を逸していました。
ところが、このアートハウスが今年の6月で閉館するということがわかり、たまたま浜松に行く機会を利用して、遂に見学することが叶いました。
話が長くなりましたが、大学生の時に雑誌で見た衝撃に勝るとも劣らない、それ以上の感動的な空間体験を与えてくれたその作品を。少しでもご紹介できればと思います。
なお、アートハウスは6月27日をもって閉館します。建築マニアの方は、ぜひこの機会に見学に行かれることを強くお勧めします!

一面芝生に覆われた古墳のようなマウンド?
資生堂掛川工場内の駐車場からアートハウスの敷地に入ったところ、ここからは建物の姿は全く見えません。
人々を迎えるアプローチにしてはなんともそっけないのですが、不思議なマウンドと建物の不在が、逆に「何かあるぞ!」と思わせるトリッキーな仕掛けを感じさせます。

曲線を描くマウンドに沿って道を進んでいくと、その先にマウンドを斜めにカットする人工の構造物が見えてきました。

斜めのカット部分までやってきました。
ようやくここで建物が現れるのです!まるで目隠しされて進んできた先で、目隠しを外されたような鮮やかさに似ています。
斜めの壁は、まるで鋭利な刃物のようにマウンドを切り取り、まっすぐに延びたその壁が、来館者を奥へ奥へと誘うのです。
日本建築の一つの特徴でもあるアプローチの妙、すなわち、あえて入り口ですべてを見せずに、焦らしながら長い距離を歩かせたのちに建物へアプローチされるという、空間演出が、ここに見られます。
これは、昨年訪問した秋野不矩美術館でも見られた演出ですが、ここでは最小限の空間的要素だけで構成されていて、ものすごく作為が薄いにも関わらず、その薄味で最高の効果が現れているのです。
このアプローチを体験しただけで、すでに谷口マジックに完全にやられてしまいました。感嘆のため息を吐きながら建物の中へ進んでいきます。
この先はまた次回をお楽しみに。
2026.5.30 設計事務所 TIME

