熊本地震震災ミュージアム 震災遺構

 

2016年の熊本地震で破損した東海大学阿蘇キャンパスの校舎

各階の床には激しく亀裂が入り、サッシュは歪み、ガラスが割れています。損壊した校舎は記憶をつなぐ震災遺構として、そのままの状態で保存されています。

今回、ボランティアガイドの説明などで、震度7の前震と本震の間に、さらに震度6の余震に2回もあっていたことを知りました。想像を絶するとはこのことですが、地震を引き起こした活断層がそれまで未知の存在であったことを考えれば、改めて日本のどこで同じことが起こってもおかしくないことを肝に命じなければと思うのです。

 

 

地表に現れた断層                            

長さ50mにも及ぶ断層が校舎のすぐ目の前まで達しており、この断層が校舎を貫いて建物を大きく破壊したことがわかります。

 

 

割裂したコンクリートの柱

阪神大震災でも同様の破壊状況をテレビや雑誌などで見て知ってはいましたが、実際に破壊された建物を直に見ると、その凄まじさがまざまざと感じられます。

 

 

校舎は損壊した建物の両側も含め3棟の建物がつながっていました。写真右が損壊した中央棟。両側の建物は地震の3年前に耐震補強されていたそうで、ほとんど被害は見られません。この建物を残してくれたことで、改めて耐震補強の重要性も肌で感じることができました。

東日本大震災の震災遺構や太平洋戦争の遺構である原爆ドームなど、建物は災害や戦争による悲惨さをダイレクトに伝えてくれるとても貴重な存在です。被災された方にはとても辛い存在ではありますが、それでも残された建物は、生きている我々にとって、未来への大きな教訓を示してくれる存在でもあります。

 

 

喫茶 竹の熊

水庭に映る空、そしてその向こうに広がる田園風景

阿蘇山の裾野に位置する熊本県南小国町。豊富な水源に恵まれた小国の里に現れた桃源郷のような喫茶竹の熊。JR九州観光まちづくりAWARD2024の大賞を受賞した、熊本の新たな観光スポットです。

コの字型平面の建築は、山里の風景を最大限に味わうことができるように開放されており、建築によってこの場所のもつ美しさが最大化されています。

 

 

アプローチから室内の喫茶室につながる回廊

細身の骨組み、道路側の視線を制御するために足元だけを開放した土壁、そして田園に向かって架けられた深い軒。衒いのないさりげないつくりですが、余分も不足もない清々しい空間です。

 

 

 

回廊から見た室内の喫茶室

高さを抑えた深い軒下空間が水面に映り込み、建築から水庭、そして田園風景へと空間がゆるやかにつながって、雑味のない調和した風景となっています。

 

 

 

喫茶室の大ガラスを通して望む里山の風景

喫茶室の床は地面を掘り下げてあり、まるで水面に浮かんでいるよう。低い視線から仰ぎ見る風景に広がりが感じられます。

 

 

 

おおらかに開放された吹きさらしの空間

水庭をはさんで喫茶室の向かい側に設けられた半屋外の喫茶空間は、高床になって田園に突き出しており、パノラマ的な開放感がとても気持ちのいい空間です。

細身の柱に支えられた屋根と光を反射する床のみで、ほとんど主張が見えないにもかかわらず、いや主張が見えないからこそ生まれる、風景と一体の気持ちよさ。もし、このあとの予定がなければ、日がな一日、ずっとここで過ごしていたい・・・、そう思えるほどのおおらかでのどかな場所でした。

 

 

 

屋根を支える架構

参加者の間でも話題が飛び交うほどの華奢な骨組は、構造的にどのように処理されているのか?残念ながら解読することはできませんでしたが、空間構成からディテールに至るまで、ギリギリまで突き詰めてデザインされた緊張感には、同じデザインをするものにとって、とても深い刺激となりました。

 

 

太宰府天満宮仮本殿

屋根一面がまるで小さな森のよう・・・

熊本視察へ向かう途中に太宰府天満宮へ寄り道しました。現在本殿の改修中で、本殿の代わりに参拝できる期間限定の仮本殿が建てられています。設計は、大阪万博の大屋根リングで知られる藤本壮介が担当。

藤本氏は若い頃から斬新なコンセプトと建築表現で頭角を現し、最近は国際的なコンペでも活躍めざましい建築家です。ただ、大胆なコンセプトによる建築表現は、プロジェクトの巨大化とともにやや密度が落ちているようにも感じていました。

この仮本殿も建築雑誌で見る限り、緑を載せた屋根の派手さだけが際立つようで、果たして実際の建築はどうなのか、気になっていました。

 

 

仮本殿を横から見るとこんな感じです。建築単体としての存在感が際立っており、境内の伝統的な建築や空間から完全に自立しているようにも見受けられます。

しかし、これはあくまで脇から見た姿。本殿は、なにより正面性が重要な建築で傾斜の急な緑の屋根は、長い参道を歩いてきた参拝者をしっかりと受け止めるためのものでした。そして、それは下の写真でより納得できるものでした。

 

 

楼門をくぐったところで見えるのがこの景色です。

屋根に載せられた緑のボリュームが回廊の外側の緑や遠くの山並みと一体となった風景を創り出しています。建造物としては確かに異質ですが、不思議と違和感を感じません。仮設建築にもかかわらず、普遍性を感じるデザインでした。

 

 

熊本大震災以降の建築について

おびただしい数の石が広場を埋め尽くしています。

建築の設計や施工に携わる地元有志でつくる住まいづくりの会、年に一度の視察旅行で熊本の建築を見て回りました。写真の石は2016年の大震災で被災した熊本城の石垣のものです。熊本の建築といえばアートポリスが有名ですが、今回は「震災以降の熊本」を軸に、県内の建築を巡りました。震災やコロナ禍を経て、人間と建築の関係はどのように変わりつつあるのか?いくつかの建築とともにレポートしていきます。

 

 

 

闇が生み出す光のドラマ

これぞ「陰翳礼讃」という空間

日下部民藝館、表通り沿いの座敷です。                  格子と障子による二重のフィルターを透過した弱い光が拡散するデリケートな空間です。現代のような隅々まで光で満たされた空間と違い、広さも距離感も捉えきれないほど曖昧です。視覚的な情報が抑制されることによって生まれる精神性の高い空間がここにはあります。

 

 

 

中庭からの日差しが差し込む座敷

こちらもほの暗い空間ながら、中庭に繁る木々を通り抜けたわずかな光がガラスを透過して宝石のように輝き、闇のような座敷に奇跡的な瞬間が現れています。

闇が存在することで生まれる光のドラマ                  現代社会が忘れかけている静かで深く心を打つ美がここには息づいています。

 

 

 

確かなプライド

妻側から差し込む光によってほのかに浮かび上がる小屋組

江戸時代、幕府の天領となった高山市で、御用商人として栄えた日下部家。明治8年の大火で一旦焼失し、その後に建てられたのは、江戸期の伝統様式を生かした壮観な造りです。

 

 

高山の豪雪から屋根を支える小屋組は格子状に組まれ、赤松の巨木を使った牛梁でしっかりと支えられています。

豪商の財力と飛騨の匠によって生み出された大空間には、うわべの豪華さだけではない確かなプライドを感じられます。

 

 

 

まち並みのもつ価値

通り沿いに置かれた緑の鉢植え                      それぞれの家の前に置かれた鉢植えは手入れが行き届き、潤いのある気持ちのいい通りが形成されています。

まち並みというのは、みんなでつくるもの。                決して一人だけの力で生み出せるものではありません。

そこにくらす人々が美意識を共有し、日々の手入れを怠らずに継続することで成り立つもの。その協調と努力の積み重ねの総和がかけがえのない風景となって現れます。それは、単体の建築とは違う、価値の重みがあります。

 

ちなみにこちらは、2007年に訪れた南フランスのアンティーブ旧市街。石造りの古い建物が連なる細い路地には、高山と同様に、それぞれの家ごとに緑が配されて心地よい雰囲気を提供しています。

歴史や文化は違えど、美しく心地よいまち並みには、共通のエッセンスが感じられます。

 

        

工芸品のような町並み

早朝の高山旧市街

日中は観光客でにぎわうこの界隈に朝の静けさが漂います。         通りの奥まで連なる町並みは、路地も含めた空間全体がひとつの工芸品のようです。ひとつひとつの町家の美しさだけでなく、通り全体で生み出された調和が日本有数の町並みを形作っています。

個と全体の調和、貫かれた美意識、その美意識を維持していくことの大変さも含めて、経済に流されず、かつ経済との両立を実行しているこの町並みが現代の日本にあることに希望を感じます。

 

グラントワと内藤廣

水平のプロポーションがとても美しいグラントワの中庭
 
 
 
 
 
 
中心に水盤が配された45m角の中庭は市民に開放された
おおらかでとても気持ちのいい公共空間です。
 
 
 
 
 
 
グラントワのある益田市人口5万ほど、
このような小さな地方都市で
これほど豊かなオープンスペースはなかなか存在しないかもしれません。
 
この豊かな空間をデザインしたのが建築家の内藤廣氏、
昨日、NHKの日曜美術館で、その内藤さんが特集されました。
 
日曜美術館(見逃した方は今度の日曜日、午後8時から再放送あり)
 
 
 
 
 
 
グラントワでは現在、内藤廣氏の展覧会
 
内藤さんがこれまで実現してきたした建物、
そして残念ながら実現されなかった設計案など
膨大な量の図面・スケッチ、そしてリアルな模型とともに
建築に込めた思いに触れることができます。
 
ちなみに、わがまち周南市の徳山駅前図書館も展示されています。
 
 
 
 
 
 
展覧会初日には内藤さんの講演会も開かれ
グラントワを設計したときの経緯や設計のこだわりなどを聴くことができました。
 
展覧会は12月4日(月)まで長期間、開催されています。
 
地方都市でこれほどの規模の展覧会はとても貴重で
しかも建築家自身が設計した建物とともに見学できるのは
なかなかない機会でしょう。
 
建築やまちづくりに興味のある方は
ぜひ見学に行かれることをお薦めします。
 
 
 
 
 
 
そして、こちらはおまけですが・・・
 
グラントワから車で10分ほどのところにある
うどんの自販機コーナー
 
NHKのドキュメント72時間でも放送された
知る人ぞ知るスポットです。
 
 
 
 
 
 
とてもオーソドックスなうどんやそばですが
なぜかホッとするおいしさがじわーっと心に染みます。
 
 
 
 
 
 
無人の休憩スポットは最低限のしつらえしかありませんが
気軽で美味しい食べ物、椅子とテーブル、気持ちいい川沿いの空間という
最強の三点セットが整った穴場スポットです。
 
混み合うほどの賑わいではないけれど
なぜか立ち寄る人の絶えない、
エッセンスのあるコミュニテイスペースです。