えんげの茶会@大津島

JIBIの松田さんからお誘い頂き、秋分の日に大津島で行われた「えんげ」の茶会に参加しました。

コロナパンデミックの影響で、大津島を訪れるのは6年ぶりくらいになります。 茶室 石柱庵に来るのも久しぶりですが、ガマの群生地の畔にあるアプローチを歩くと、静かに心が整っていきます。

 

 

石の立礼席では、京都の茶人 天江大陸氏の趣向による抹茶をいただきました。島を訪れ、自然に触れて時間に縛られない時を過ごすことの豊かさを天江氏の語りとともに味わいました。

 

 

菓子には大津島で採れたスダイダイをくるんだ葛餅

弾力のある餅の食感の中からスダイダイの爽やかな酸味・甘み・苦味が自然そのままの味として舌の上に広がってきます。

 

 

壁に生けけられた青柿の実

暑い日が続いていましたが、かすかに秋の気配を感じます。

 

 

客座から上田快 氏製作の石の立礼卓の奥に広がる自然の庭

引戸を開けると秋の風がスーッと流れ込んできました。

 

 

茶室の屋根にはサビが現れてきました。

元の朽ちたトタン屋根を吹き替えた当初はつやつやした銀色をしていましたが、建設から10年を経て少しずつ侘びた表情に変化してきました。

 

 

ガマの群生地ではガマの穂がちょうど見頃になっています。

 

 

こちらは数珠玉。街中ではなかなか身近に出会うことない珍しい植物です。

 

 

水辺にはホテイアオイが淡い紫色の花を咲かせています。

 

 

カラフルなシャクトリムシを見つけました。

黒い体に黄色と赤の斑点がとてもきれいで、なにげない島の自然の中に広がる豊かさを感じさせてくれます。

 

 

茶室をあとにして、ガマの群生地の奥にある厳島神社へ向かいます。

まちづくりや茶室の工事で何度も訪れたこの参道ですが、久しぶりに歩くこの道は風景とともに実に味わい深い。

 

 

厳島神社の拝殿と石の本殿

簡素な拝殿は四方全体が開放されていて、とても気持ちのよい造りです。

 

 

こちらでは白茶という中国原産のシンプルなお茶をいただきました。

木々が茂る自然に包まれた境内、自然と溶け合う拝殿の仄明るい空間、水出しのお茶からにじみ出すかすかな香り。五感を通して身も心も澄み切っていきます。

 

 

日常を離れ、時間を忘れて過ごす島のひととき

それは、現代人にとってとても豊かなデトックス。茶会をともにした皆さんとともに豊かなひとときを体に刻んで、大津島をあとにしました。

 

 

何気ない風景@スターバックス

ガラス越しの緑、そこからの木漏れ日が店内を心地よく満たします。

浜松城そばのスターバックスは、シンプルな造りながら実に気持ちのよい場所です。建築に気負いはまったく感じられず、ただただ清浄な気だけが感じられます。

公園に面した外壁は床から屋根まですべてガラス貼り、ほぼスケルトンの空間は森に抱かれたようで、室内にいながら森林浴の気分です。

 

 

 

視線を公園に移すと見えるのは、こちらも穏やかな休日の風景です。

公園はほどよい広さで、外周をぐるりと豊かな緑が包んでいます。三々五々と人が訪れては去っていきつつ、絶えず人の振る舞いが感じられる情景に、のどかな印象派の絵画を想い起します。

 

 

 

まち並みのもつ価値

通り沿いに置かれた緑の鉢植え                      それぞれの家の前に置かれた鉢植えは手入れが行き届き、潤いのある気持ちのいい通りが形成されています。

まち並みというのは、みんなでつくるもの。                決して一人だけの力で生み出せるものではありません。

そこにくらす人々が美意識を共有し、日々の手入れを怠らずに継続することで成り立つもの。その協調と努力の積み重ねの総和がかけがえのない風景となって現れます。それは、単体の建築とは違う、価値の重みがあります。

 

ちなみにこちらは、2007年に訪れた南フランスのアンティーブ旧市街。石造りの古い建物が連なる細い路地には、高山と同様に、それぞれの家ごとに緑が配されて心地よい雰囲気を提供しています。

歴史や文化は違えど、美しく心地よいまち並みには、共通のエッセンスが感じられます。

 

        

ディスカバージャパン @島根

 
 
島根県石見地方の山間部に位置する有福温泉
古くは奈良時代まで辿ることのできる歴史ある温泉地です。
 
温泉街を抜けて山道を数分歩くと神々しい朝の風景に出会いました。
以下、清々しい空気の中、素のままの山里の風情が感じられる
ディスカバージャパン的な風景をご紹介します。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

水の郷

一面に水が張られ、田植えを待つ山里の風景
新たなプロジェクトの関係で湯野地区の風景を見てきました。
 
 
 
 
 
 
棚田の水鏡に映り込む青空が美しい。
梅雨入り前の棚田では一斉に田植えが行われていました。
 
 
 
 
 
 
ほとんど湖のよう
 
まるで土地という土地すべてが水に満たされたような風景は
アスファルトに覆われた市街地に住む人間にはとても新鮮です。
 
 
 
 
 
 
水しぶきを上げながら、滔々と湧き出してくる清らかな水
山から湧き出した水は水路を通じてそれぞれの田んぼに導かれていきます。
 
あちらこちらに水の音が響き、豊富な水があふれる郷は
自然の豊かさを感じさせてくれます。
 
 
 
 
 
 
棚田の石垣と水田の苗
 
これらはあくまで人間がつくり出したものですが
不純物のない自然物だけでできた風景はなんとも美しい。
 
 
 
 
 
 
石垣は自然石を巧みに積み上げたランダムなもので
自然の形に寄り添いながら人間の知恵が加わってできています。
 
 
 
 
 
 
こちらの棚田はやや新しいものか・・・?
石垣のうねる曲線が現代建築のような造形にも見えます。
 
 
 
 
 
 
 
こちらはおまけですが
太陽の光を受けて黄金色にかがやく麦畑と新緑の山並み、そして青空
何気ないですが、みじかな場所にもこんなに美しい風景が存在しています。
 
 
 
 
 
 
山の中腹まで登って見下ろした湯野の郷
 
周囲の山に囲われた、すり鉢状の土地が
山から湧いてくる豊かな水の受け皿になっていることがわかります。
 
特別な何かがあるわけではないけれど
こんなにも豊かな郷だったのかと、再認識させられました。
 
豊かな自然に抱かれた水の郷は
じわっとインスピレーションを与えてくれました。
 
 
 

 

何気ない風景@堂島川と高架道路

堂島川に覆いかぶさるように走る阪神高速道路
その裏面に現れた光のゆらぎ
 
水面に差し込んだ日光が反射して無骨な構造物に波紋が表情を与えています。
こんな無機質な巨大構造物にも美を見出すことができます。
 
 
 
 
 
 
 
高架の高速道路は日本の経済成長とともにまちに現れ
ダイナミックな構造物は都市の風景における象徴的な存在です。
 
 
 
 
 
 
一方で、まちの川沿いはほとんど高速道路に占拠されて
まちと川との接点は人間らしい暮らしから遠ざけられてきました。
 
しかし、世界では都市の水辺が人間らしい場として見直され
川を生かした都市づくりが行われています。
 
 
 
 
 
 
ここ中之島でも、川沿いの河川管理通路にイスやテーブル、植栽を配し
川沿いに人の集う場を生み出す取組みが行われています。
 
時は経済の時代から環境の時代へ
 
日本人も経済一辺倒ではなく、
自然のもつ景観やその居心地のよさに価値を見出だし始めています。
 
この場所も大阪府の政策として
水辺を人々の憩いの場に蘇らせる取組みを始めています。
 
まだ緒についたばかりではありますが
少しずつ、まちが人間らしさを取り戻そうとしています。
 
 

中之島、まち並みの過去と現在

早朝の中之島と堂島川
 
大阪の中之島界隈を視察してきました。
次々に高層化が進む大阪の中心部のなかでも
都市の余白として、ゆとりを感じられる貴重な場所です。
 
 
 
 
 
 
 
日本銀行大阪支店
 
中之島には歴史ある建築がいくつか残っていて
現代の高層ビル群の中に威風堂々とした佇まいを見せています。
 
 
 
 
 
 
 
中之島公会堂
 
ネオ・ルネサンス様式を基調にした外観はとても表情豊かで
この建築があることによって中之島の個性が明確になっている気がします。
 
 
 
 
 
 
 
三井住友銀行大阪本店
 
大正末期から昭和初期にかけて建設された建物は
端正なプロポーションで抑制の効いたデザインですが、
外壁に使われた竜山石が重厚感のある端正な表情を見せています。
 
 
 
 
 
 
 
ダイビル本館の入口ファサード
 
1925年に建設された8階建てのダイビル、
ネオ・ロマネスクの美しいデザインで長く愛されてきましたが
平成の再開発で2013年に22階建ての高層ビルに建て替えられました。
 
様々な保存を望む声に応え
堂島川側の外観は、建替前の建材を再利用して忠実に再現されたそうです。
 
 
 
 
 
 
 
 
旧ダイビルの外観を再現した低層部分とセットバックしてそびえる高層部分
 
東京の歌舞伎座や中央郵便局などと同様のデザイン手法で
元の建物の外観を台座のようにしてその上に現代的なガラス張りの建築が載る形になっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
中之島も再開発によって高層化が進み、まちの姿がどんどん変化してきましたが
そんな中に、この春、低層の新スポットがオープンしました。
 
周囲の高層ビルに挟まれるようにして建つ、漆黒のオブジェのような建築で
ぽっかりと空いた空がこの場に固有の磁場を生み出しています。
 
 
 

御城番屋敷@松阪

旧松阪城内に残る御城番屋敷
 
まっすぐに延びる石畳の道、
両側には同じ高さで刈り揃えられた生垣が植えられています。
 
生垣の奥には江戸末期に建てられた藩士の組屋敷があり
現在でも、その子孫などが生活を営んでいるそうです。
 
個性的な形と長さを持つ生垣は、道と屋敷の公私を区切り
その高さ(約1.7m)によって屋敷のプライバシーを守るとともに
整然とした秩序と緑の潤いによって独自の景観美を生み出しています。
 
 
 
 
 
 
松阪城から見た御城番屋敷
 
長さ十二間半(約23m)の長屋が道を挟んで平行に建っていて
ここだけ江戸時代の秩序あるまち並みが残っています。
 
 
 
 
 
 
番屋敷と道路の間には端から端まで生垣が植えられて
建物・生垣と道路がワンセットになった空間が形成されています。
 
 
 
 
 
 
生垣には所々にスリットがあり
これがそれぞれの屋敷に入る入口になっています。
 
 
 
 
 
 
入口を正面から見たところ
 
生垣は道と屋敷を仕切るだけでなく
入口の門のような役割にもなっています。
 
 
 
 
 
 
 
番屋敷の特徴である生垣は、周辺の家々にも生かされており
このあたり一帯、整った緑の景観が連続して
歩いていてもとても気持ちのいい通りです。
 
 
 
 
 
 
こちらは生垣ではないですが
鉢植えの緑が道路一面に置かれています。
 
樹木や植栽は常に手入れが必要で
忙しい現代ではとかく敬遠されがちですが
手をかけてあげれば、家も引き立ち、まちにも潤いを与えてくれます。
 
潤いとともに、手間をかけることで自身の心も整えてくれる
緑のある暮らしがもつ効用を実感させてくれる
そんな松阪のまち並みです。
 
 
 

伊勢神宮おはらい町に見るまちづくり

 
 
猿田彦神社前交差点から神宮入口まで約800m、
通りは一見、歴史を感じさせる風情あるまち並みです。
 
しかし実際には、戦後に車社会で劣化したまち並みが
それ以前のデザインへ創造的復元がなされたものです。(下の画像)
 
車社会は便利だけど、
副作用でまちの質が劣化するのはどこも同じですね。
 
 
 
 
国土交通省HPより)
 
しかし、伊勢はそのまま時代に流されるままにせず
便利さの誘惑を絶って、まちの質を向上させることに舵を切ったのです。
 
平成元年に「まちなみ保全条例」を制定、
沿道建物の建築協定、電線地中化、石畳舗装の整備など
景観整備の3点セットでまち並みを充実。
 
また、内宮入口近くにあった駐車場を
あえて1km近く離れた猿田彦神社側に整備し直し、自家用車を誘導。
おはらい町への車の進入も規制し
参拝者は駐車場からおはらい町を歩いて通り抜ける動線に改良。
 
おはらい町沿いの建物は「伊勢造」と呼ばれる
妻入りの伝統様式でまち並みを統一。
 
おはらい町中央にはおかげ横丁を整備、
伝統的なまち並みをモチーフにした低層で回遊性のある
商業エリアが加わりました。
 
この巨費を投じた事業の実現には、
あの有名な赤福による民間投資が大きく貢献しているそうです。
 
地元住民が中心になり、官民がうまく連携したまちの復活。
それが冒頭の写真にある賑わいを生み出しているのです。