アートの効用、岡山芸術交流にて

今回で2回目の岡山芸術交流に行ってきました。
(前回記事はこちら)
 
会場は岡山市内の美術館や岡山城、その他、
いくつかの民間の建物や公園などが活用されています。
 
写真の旧内山下小学校
校庭と校舎全体を丸ごとアート空間として活用しています。
 
 
 
 
校庭に展開するパーフォーマンスやオブジェ、
道路を挟んだ向こうのテレビ局の壁面には映像作品があり
敷地を超えて、まちそのものがアート空間となっています。
 
 
 
 
校舎は昭和8年に建てられた由緒ある建物
 
少子化による統廃合で廃校となってしまっていますが
ノスタルジックで趣のある空間は、アート空間として見事にはまっています。
 
 
 
 
教室内の展示空間とオブジェ
 
 
 
 
こちらも市内に残る旧福岡醤油建物
 
黒漆喰の木造の建物が存在感を示していますが
内部が展示空間として活用されています。
 
最近は、明治から昭和期の建物が老朽化に伴って解体され
まちの歴史がどんどん失われていく、とても残念な状況です。
 
そんな中、
最新の現代アートと古い建物のマッチングは
歴史を伝えつつ、文化を発信することでまちを活性化するという
新たな可能性を示しています。
 
 
 

美醜の境界

改装中の小屋裏収納
コンパネやシナベニヤ、間柱などの下地材による構成です。
 
右奥から差し込む光のグラーデーションで空間が艶めいて
チープな素材のパッチワークと光の共演が美醜の境界を曖昧にします。
 
もちろん、現実的には裏方の空間なんですが
これを表に使い変えるとかなり鋭い空間になりそうで、
思わずそそられてしまうのは私だけだろうか・・・
 
 
 

坂本杏苑さん、個展

本丁蔵部での開催された
書家の坂本杏苑さんの個展に行ってきました。
 
 初期の作品から今日までの作品が集められ、
作風の変遷も楽しめる趣向になっています。
 
 
 
 
主屋の玄関に掛けられた作品
 
白い画面にモノクロの墨が描く線とにじみによるコンポジション、
坂本さんの心の中にある心象風景が現れているようです。
 
 
 
 
座敷床の間のしつらえ。
 
和の空間にしっくりとはまる掛軸。
それぞれのものたちが響き合う美しい空間です。
 
 
 
 
展覧会の空間構成に使われていた掛軸。
 
「これは作品じゃないんだけど・・・」と言われたのですが
作者の素顔が垣間見えるような自然な雰囲気がとても気に入ったので
坂本さんにお願いして特別に手に入れ、事務所の打合せ室の壁にかけてみました。
 
ときはなる松のみどりも春くれば今ひとしほの色まさりけり
 
古今和歌集の春の歌、
新春にふさわしい風情ともども味わいたいと思います。
 
 

何気ない風景@櫛ヶ浜の家

工事現場に現れたタレル!
 いや、正確にはタレルっぽい風景です。
 
現在、再生工事中の築95年の町家、
雨よけのために窓を覆っているブルーシートから漏れる光が拡散し、
ほの暗いブルーな空間に変容していました。
 
作為のないところに図らずして現れたジェームズ・タレルでした。
 
 

何気ない風景@虹ケ浜

 
虹ケ浜の現場近くにゴジラが出現!
 
環境美化に関心をもってもらうために表現されたというこのゴジラ、
流木でつくられたその姿はなかなかのクオリティですが
安全を懸念する県の要請を受け、製作者により自主撤去されることに。
 
危険 → 撤去 というのは、異質なものを排除しようとする日本民族のDNAゆえか?
危険 → 安全にする という柔らかい発想ができないところに
活性化しない日本社会の問題の根深さが表れています。
 
危険で景観を阻害する空き家がなかなか撤去されないのとは対照的ですが
期せずして社会の矛盾をついた浜のゴジラ、
「オレはいつでも戻ってくるぜ!」と笑っているようにも見えるのです。
 
 
 
 

 

岡山芸術交流7

 
 
 
 
 
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夕暮れの街角に現れた巨大アート
マイケル・グレイク=マーティンの「信号所」
 
蛍光灯の電球がポップな色合いで描かれ、
スケールアウトした大きさが常識を揺さぶって、街を刺激的な場所に変えています。
 
 
実際の街灯と響き合うように映るアートの電灯、
何気ない夕暮れをワクワクさせるスパイスです。
 
 
 
 
 
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隣にはこれもカラフルに彩られたタワー
リアム・ギリックの「Faceted Development」
 
 
今回、まちや地域の文化財にも展開したアートイベント、
窮屈な美術館のハコを飛び出して、より自由な表現を獲得し、
まちにさまざまな刺激を与えているようです。
 
ヨーロッパでは公共の場は屋内、屋外の境を越えて市民に開かれていますが
このイベントでは、アートの力によって様々な境を越えて、
まちを生き生きとした場に変容させています。
 
まさに、まちを活性化させた貴重な機会だったと言えるでしょう。
 
 
 
 
 

岡山芸術交流6

 
 
 
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岡山芸術交流、最後にスポットへ
こちらも前川國男設計による林原美術館。
 
なお、この門は岡山城二の丸にあった長屋門を移築したもの。
この地の歴史や文脈を意識した街並みの形成を図っています。
 
 
 
 
 
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長屋門をくぐると道が斜めに折れ、その先の階段に視線が誘われます。
緩やかな階段を上ったところに低く抑えられた美術館の入口が見えてきます。
 
単純な構成ですが、大胆に場面を展開しながら
躍動感のあるアプローチ空間を創り出しています。
 
 
 
 
 
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館内に入って最初に出迎えてくれたのは大きなヤドカリ!
 
なんでヤドカリ・・・?
と、一瞬戸惑うのですが、よく見ると借りている「ヤド」が仮面です(笑)
 
生物とアートが混在してさりげなく違和感が漂っています。
 
 
 
 
 
DSC052600憂いを帯びた表情で何を思う.jpg
 
 
次にあらわれた映像作品、
能面にインスピレーションを得た仮面をモチーフにしたもの。
 
憂いを帯びた表情は、物思いに耽る少女を連想させますが・・・
 
 
 
 
DSC052601と思ったら、瓶を倒す凶暴に変貌.jpg
 
いきなり、瓶を激しく倒し、凶暴な性格に豹変!
 
んっ!
少女の腕が毛むくじゃら!!
 
そう、仮面をかぶっているのは人ではなくサルなんです。
 
サルに仮面をかぶせることで、野蛮な獣と少女が同居する
どうにも整理のつかない、不可思議な感覚が頭の中を駆け巡ります。
 
 
 
 
 
DSC052602顔が蜂の巣に覆われたか?蜂の巣人間か?.jpg
 
庭に横たわる女性の彫像
 
こちらも、やばい!
顔が蜂の巣に覆われてしまっています。
 
いやいや、
もしかするともともとただの人間じゃなくて、蜂の巣人間なのかもしれません!
 
 
もはや、人間とそうでないものの境がわからない異次元に入り込んでしまったような、
これまで生きてきた経験を裏切られるような、そんな体験です。
なんとも興味深い。
 
 
 

岡山芸術交流5

 
 
 
 
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岡山城、不明門
厳めしい城門の上屋の中にアート作品があるということでまずは拝見。
 
 
 
 
 
 
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島袋道浩の映像作品「弓から弓へ」
 
2台のコントラバスを演奏していますが、右側の弓はなぜか弓矢の弓!
まじめに演奏しているところに、逆にユーモアを感じます。
 
古来、狩猟や戦争に使われた弓をヒントにバイオリンが生まれたとも言われるそうで
そのことが直裁に表現されています。
 
この作品が「戰の象徴」でもある城、それも城の文化財が置かれた部屋にあるのが
なんとも示唆的です。
 
音楽やアートは平和の象徴でもあります。
争う時代から平和な時代に変わった今、この作品を見ることで
改めて平和であることをじわりと感じます。
 
 
 
 
 
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本丸に設営された仮設足場によるジャングルとその入口
これはリクリット・ティラヴァーニャが手掛けた茶室とその路地。
 
仮設フレームでつくられた結界、
その林の中を飛び石ならぬ仮設の床材を渡っていくという趣向。
 
 
 
 
 
 
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路地の途中に置かれた盆栽
 
3Dプリンターでつくられてたいわば「フェイク」ですが
「美とは捏造である」という茶道に潜む本質を暗示しているようにも見えてきます。
 
 
 
 
 
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矩折りの路地を進んだ先にある正方形の茶室
 
仮設資材やフェイクなど、常識を覆す表現は茶道の精神そのもの、
茶道と現代アートとの親和性を改めて感じます。
 
 

岡山芸術交流4

 
 
 
 
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後楽園にある「流店」
 
後楽園は今回のイベント会場ではありませんが
以前から気になっていた「流店」を見るため足を伸ばしました。
 
2階建ての1階はほぼ完全に吹きさらし、
2階が閉じているため、1階の抜けが強調されていて
これ以上、突き抜けた開放感を感じる建築を他に知りません。
 
 
 
 
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2階は雨戸で閉じてありますが、
なんと! 雨戸の戸袋が建物より外へ飛び出しています。
 
雨戸を開けると間口いっぱいに景色が広がることになります。
是が非でも最高の開放感にこだわった、この空間に賭ける思いが伝わってきます。
 
 
 
 
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「流店」最大の見せ場
建物の中を流水が貫く、実に独創的な趣向です。
 
四方柱だけのシンプルな空間に、水という自然を取り込んだ
明快にして大胆な空間構成です。
 
午後からの日差しが水路に反射し、天井に揺らめく光を移し
静と動、自然と人工、小さい建築と大きな風景が融合する
実に感動的な空間に体が溶けていきそうです。
 
 
 
 

岡山芸術交流3

 
 
 
 
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岡山のまちなかに宇宙からの飛行物体が落下!
駐車場の舗装の割れ方が落下の凄まじさを物語っています。
 
 
 
 
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そうではなくて、あくまでフィクション。
作品のタイトルは「編集は高くつくので」、ライアン・ガンダーの作品です。
 
異次元から飛来したとの設定ということですが
それにしても徹底した表現、本気度満々です。
 
美術館を飛び出して、現実のまちを舞台にした表現に
スケールとリアリティがあふれています。
 
 
 
 
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午前中いっぱい見て回ったところで、近くに見つけたカフェにイン。
 
古い町家を改修したようですが、
後楽園に近いこのエリアは古くからの風情に新しいセンスが加わって
街並みに味わいが増しています。
 
 
 
 
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窓越しに旭川と後楽園にかかる橋、そして青空、
眺めがよく、とても落ち着けるお店です。
 
ここで一服した後、後楽園から岡山城へ
後半戦に臨みます。