湯野のプロジェクト、始動

広い敷地の奥にそそり立つ松の大樹
 
元旅館の跡地は、扇状地の一部になっていて
手前の道路に向かって緩やかな下り斜面を形成しています。
 
松の大樹の左手前には既存の大浴場が残っています。
この大浴場に、新たな温浴施設を加えて
湯野の里に活気を生み出すプロジェクトが動き出しました。
 
 
 
松の大樹をシンボルツリーに見立て
扇状地のもつ広がりを素直に生かして新たな施設を松の木の右側に配置
 
末広がりに開ける風景がこの山里の風景と溶け合うように
この場のもつ豊かな風情を引き立てるべく、デザインをまとめていきます。
 

都市の魅力的な公共空間、中之島美術館

大阪の中之島にこの春オープンした中之島美術館
 
堂島川の対岸からは、一見、無表情なブラックボックスに見えますが
都市の公共空間として、また美術館の持つべき性能面などで
様々な工夫が盛り込まれたデザインになっています。
 
 
 
 
 
 
側面の道路から見るとブラックボックスは宙に浮いた存在で
1階はカフェやショップ、2階は美術館のエントランスとなっています。
 
この2層の空間はチケットがなくても誰でも自由に入れる
まちに開かれた場です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2階のエントランスは道路から6mほど上がったところにあり
川沿いの道路からは、丘のような公園を上りながらアクセスできます。
 
 
 
 
 
 
通路や階段脇にはあちこちに植栽が植えられていて
まっすぐに上がっていくだけの単調なアプローチではなく
公園をゆっくりと散策するようなアプローチです。
 
 
 
 
 
 
アクセスは階段のほかに緩やかなスロープの選択肢もあり
高齢者や身障者に対しても配慮されています。
 
 
 
 
 
 
ゆるやかな丘には段々状の踊り場がありベンチも備わっているので
川や都市の風景を眺めたり、家族や友人とおしゃべりしたりなど
ゆったりと過ごせる場所になっています。
 
このアプローチは美術館に行くための単なる通路ではなく
都市の中にある公園としてもデザインされているのです。
 
 
 
 
 
 
床は既成コンクリートの細かい平板が石畳風に敷き詰められていて
すべりにくくて排水性もよく、コスト面でもよく考えられています。
 
 
 
 
 
 
散策路脇の植栽との取り合いはスチールプレートの見切りで
植栽の生え際がシンプルですっきりしたデザインです。
 
 
 
 
 
 
エントランスのある2階まで上がってくると
ヤノベケンジのアート作品 SHIP’S CAT が迎えてくれます。
 
作品の周りにもベンチが設けられているので
ここでもゆったりと時間を過ごすことができます。
 
アートや都市の自然に親しむことができる
とてもゆとりのある空間になっています。
 
 
 
 
 
 
 
堂島川に面する側の手すりには10センチほどのカウンターがついていて
まちを眺めながらコーヒーで一服もできそうです。
 
隅々まで細かい配慮がされた、心地よいデザインです。
 
 
 
 
 
 
エントランスレベルには開放的な芝生広場が設けてあり
この日は週末のイベント用の設営がされていました。
 
川に面した芝生広場は美術館の付加価値として
まちとの親和性をとても高めています。
 
この場所は、美術館に来る人にもそうでない人にも開かれていて
都市の公共空間として、とても魅力的なデザインだと感じました。
 
 

社会実験@御幸通

公園になった御幸通
 
道路を移動空間だけでなく滞在空間として使えるようにする、
国が進める通称「ほこみち制度」による社会実験が行われました。
 
1日限りでしたが、昨日は天気もよくとても過ごしやすい気候で
幅50mの駅前大通りが市民に開放されました。
 
車が入ってこない広い通りは穏やかで、かつなにより安全で
子供を連れた家族連れで賑わい、お年寄りもゆったりと過ごしていました。
 
 
 
 
 
 
 
通りにはイスとテーブルが置かれ、キッチンカーも3台出店、
御幸通のシンボルツリーであるヒマラヤスギがつくるほどよい木陰で
のんびりと過ごす、気持ちのいい時間でした。
 
 
 
 
 
 
 
キッチンカーも好評のようで行列ができることも。
 
 
 
 
 
 
御幸通は太平洋戦争の空襲で焼け野原になったまちの中心に
戦後復興事業の象徴として生み出された通りです。
 
車が今ほど多くない時代に計画された幅50mの通りは
地方ではまだ珍しかった街路樹のある豊かな街路です。
 
経済成長とともに車社会に対応してきた大通りは
環境の時代を迎え、車から人へと変化する兆しが見え始めています。
 
周南市の戦後復興を支え、歴史遺産でもあるこの通りが
近い将来、本当の公園になることを期待したいと思います。
 
 

御幸通が公園に!

徳山駅前から北へ伸びる御幸通が1日限定で公園に!
 
周南市中心市街地活性化協議会の主催で社会実験が行われるそうです。
 
御幸通の中央部分に天然芝の公園にして椅子やテーブル、ハンモックが置かれ
のんびりとくつろげる場所を生み出します。
コーヒーや軽食のキッチンカーも出店するそうです。
 
車社会で駐車場や車道ばかりになってしまったまちを
人のくつろげる場所に変えていこうという、新たな試みです。
 
当日は天気もよさそうです。
まちなかでの新しい日常の体験へ、出かけてみてはいかがですか?
 
 

伊勢神宮おはらい町に見るまちづくり

 
 
猿田彦神社前交差点から神宮入口まで約800m、
通りは一見、歴史を感じさせる風情あるまち並みです。
 
しかし実際には、戦後に車社会で劣化したまち並みが
それ以前のデザインへ創造的復元がなされたものです。(下の画像)
 
車社会は便利だけど、
副作用でまちの質が劣化するのはどこも同じですね。
 
 
 
 
国土交通省HPより)
 
しかし、伊勢はそのまま時代に流されるままにせず
便利さの誘惑を絶って、まちの質を向上させることに舵を切ったのです。
 
平成元年に「まちなみ保全条例」を制定、
沿道建物の建築協定、電線地中化、石畳舗装の整備など
景観整備の3点セットでまち並みを充実。
 
また、内宮入口近くにあった駐車場を
あえて1km近く離れた猿田彦神社側に整備し直し、自家用車を誘導。
おはらい町への車の進入も規制し
参拝者は駐車場からおはらい町を歩いて通り抜ける動線に改良。
 
おはらい町沿いの建物は「伊勢造」と呼ばれる
妻入りの伝統様式でまち並みを統一。
 
おはらい町中央にはおかげ横丁を整備、
伝統的なまち並みをモチーフにした低層で回遊性のある
商業エリアが加わりました。
 
この巨費を投じた事業の実現には、
あの有名な赤福による民間投資が大きく貢献しているそうです。
 
地元住民が中心になり、官民がうまく連携したまちの復活。
それが冒頭の写真にある賑わいを生み出しているのです。
 
 
 

文化のバロメーター

時代を感じさせるデザインが印象的な上田映劇
 
 
 駅前通りから横筋に入り、
少しくたびれた路地を歩いたところにそれはあります。
 
見知らぬまちでいきなりタイムスリップしたかのような 
錯覚を覚えるほど、リアリティのある存在感です。
 
建物の古さから、閉館した映画館かと思いきや
壁に貼られたポスターを見ると、なんと現役で使われていました!
 
レンガ色タイルの丸柱に「上田映劇」の金文字、
そのデザインとリアルな素材感に長い時間が凝縮されています。
 
 
 
 
 
 
見上げるとアールデコ調のかまぼこ型に膨らんだ壁が連続し
これまた年季の入ったローマ字のロゴには凄みが感じられます。
 
 上田映劇は大正17年創業で、当初は演劇場としてスタートし
昭和期には映画館として全盛期を迎えたそうです。
 
 
 
 
 
 
玄関正面の腰壁にはオリジナルの黄土色のタイルが貼られ
上部の緑色の壁とのコンポジションが味わい深いです。
 
 
 
 
 
 
こちらは切符売り場
ひとつひとつのパーツが時間的に調和しながら
凍結保存された文化財とは違う体温が感じられます。
 
 
 
 
 
 
この映画館は平成に入ると大手シネコンなどにおされ
一度は閉館に追い込まれたそうです。
 
それでも、映画を愛する有志によって復活、
瀕死の状態から息を吹き返したのです。
 
映画館は、まちの文化レベルを測るバロメーターです。
 
復活にあたり、映画館の存在は
人々に大きなインセンティブを与えたことでしょう。
 
建築は、自身の持つデザインの力によって
まちの文化を熟成させるために大切な役割を担っています。
 
 

記憶の残像

上田市中心部の商業エリアに現れた風穴
 
老朽化した建物が解体され、その奥に現代のビルが垣間見られ
新旧の地層のように建物を通して時間の奥行きが現れています。
 
 
 
 
 
 
隣接していた建物の外壁にはトマソン級の残像が・・・
古い建物は解体されてなお、まちに記憶を刻んでいます。
 
おそらくこの場所には近々新しい時代の建物が建つのでしょう。
 
まちの新陳代謝とともに過去の記憶は失われますが
一瞬だけ現れたこの記憶の残像は「もののあわれ」のように
この場所に関わった人たちの心に響くのかもしれません。
 
 
 
 

長野と三重をめぐる

コロナに負けず、観光客で賑わう伊勢神宮のおはらい町
 
高度経済成長期の一時期、車社会により衰退したこの通り、
まち並みの景観整備や交通対策などの努力を重ねて賑わいを取り戻しました。
コロナ禍の反動もあり、この夏最後の週末は凄まじい賑わいです。
 
 
 
 
 
 
一方こちらは長野県上田市、まちなかの風景
どちらも今の日本のリアルな風景です。
 
週末に長野と三重を巡ってきました。
建築やまちをめぐり、出会ったものたちをレポートします。
 
 

早く作ったものは長持ちするか?

前回、明治神宮内苑につくられた人工の杜についての話をしました。
もともと荒地だった場所に150年後に自然循環する杜をめざして計画され
見事に実現した姿を今に示していました。
 
現在、神宮外苑では再開発の計画が進められています。
 
三井不動産が公表した外苑地区再開発のイメージ
 
現在ある神宮球場や秩父宮ラグビー場を建替え、
新たに商業施設やオフィス、ホテルなどの高層ビルも計画されています。
 
再開発に伴い、
約900本の既存樹木が伐採され植え替えられるとのことで
樹齢100年以上の樹木などの景観が失われることに対して
一部には計画内容に反対や批判の声が上がっているようです。
 
既存樹木は伐採されるだけでなく、新たに植樹もされるようですが
その植樹は必ずしも土地の植生や土壌に合わないとの指摘もあります。
 
建物の大規模化による緑との景観上のバランスも懸念されるところで
将来に禍根を残さないかが気になるところです。
 
 明治神宮内苑で生み出された150年後を見据えた杜づくりと
経済利益優先にも見える神宮外苑の再開発の動き。
果たして、どちらが未来に渡って長く愛されるのでしょうか?
 
建築にはその時代の人々にとっての役割があり、
当然ながら、それに応えることが求められます。
 
一方で、目先の役割や事業の収支だけでなく、
時代を超えて長く愛され続けることも建築の重要な役目です。
 
 
「早く作ったものは長持ちするか?」
 
 
いつも考え続けている私の問いです。
 
長く、愛着が感じられる場は一朝一夕には生まれないのではないか?
焦らずに時間をかけて丁寧に丁寧に吟味しながらつくったものでしか
生まれないものがあるのではないか?
 
150年後を見据えた神宮の杜の営みを見るにつけ、そのことを思います。
 
翻って
我々が日々携わる建築の仕事でも、そのことはちゃんと意識されているでしょうか?
安く、早くという人間の都合が加速度的に高まる現代だからこそ
使い捨てでなく、愛着を感じて暮らせる場をつくることの大切さを感じます。
 
 

丸の内仲通りアーバンテラス

丸の内仲通り
東京駅前の行幸通りから有楽町までつづく850mほどの区間で
道路を歩行者空間として活用するモデル事業が行われています。
 
 
 
 
 
 
 
沿道にはプランターなどの植栽で空間に潤いが与えられています。
 
 
 
 
 
 
歩行者空間には欠かせないベンチも常備されています。
 
 
 
 
 
 
事業では、日中は道路を歩行者空間にすることで
歩行者にとってゆとりのある空間を提供しています。
 
 
 
 
 
 
また、単なる移動空間だけでなく滞留できる「テラス」と捉え
ゆったりと過ごせる場をめざしています。
 
以下のようなコンセプトが謳われています。
 
「地中海沿いの都市では
 街の通りは、応接間であり、会議室であり、
 そして劇場であるといいます。 
 (中略)
 近年の研究によれば、歩いてたのしい
 通りのある街の人々の幸福度は
 そうでない街に比べて総じて高いそうです。」
 
私もイタリアや南フランスなどを実際に歩いてきた経験から
そのことをとても強く実感しています。
(詳しくは、このブログの「週末連載〜南フランス」にてレポートしています)
 
まちのなかにある広場や道路などの公共空間の質の高さが
まちの豊かさに決定的な影響を与えているのです。
 
ヨーロッパでは1960年代に車社会の弊害を自覚し
50年かけて人間中心のまちを回復する取組みが行われてきました。
その結果、上記のコンセプトのように生き生きとした空間が復活しているのです。
 
その動きは、21世紀に入り
ニューヨークやメルボルンなどでも実践が進んでいます。
 
そして、東京の中心でも
遅まきながらとはいえ、実践活動がはじまったことは
とても喜ばしいことです。
 
 
 
 
 
視察した4月1日は肌寒い気候だったこともあり
昼下がりの通りを歩く人はそれほど多くはなかったものの
テーブルやイスが配され、キッチンカーなども出店して
通りのアメニティに貢献していました。
 
ちなみに、
歩行者空間は日中の一定時間のみなので
イスやテーブルは、誰かが片付けていることになります。
しかも、毎日欠かさず!
 
 
 
 
 
こちらにはエスニックのキッチンカー
 
すでに昼食を済ましたあとでしたが
バインミー、食べてみたかった・・・、残念
 
 
 
 
 
 
もちろん、
くつろぎに欠かせないコーヒーのキッチンカーも常設です。
 
 
 
 
 
 
 
通りに面したオープンカフェもありました。
室内から賑わいや活動が染み出すこのようなお店は
通りの居心地を高めるために欠かせないものです。
 
 
 
 
 
 
建物の1階部分には
通りに浸みだすように開放的なお店も幾つか見られます。
 
ベンチやイスにキッチンカー、潤いを与える緑など
様々な設えが工夫されていますが、
それだけではまだパーフェクトとは言えません。
 
沿道沿いの建物の1階部分が通りとつながり
多様な種類のお店が通りと一体になって
連続的につながって空間を作り出すことが重要なのです。
 
その意味では、建物側の対応がまだまだ消極的ですが
今後、この部分をブラッシュアップして
さらに豊かな通りをめざしてほしいと思います。
 
 
 
 
 
 
丸の内仲通りを抜けて日比谷シャンテ(写真左奥)の前へ。
 
日比谷シャンテのビルの角は円形に切り取られ
さらに上層に向かってセットバックすることで通りにゆとりを与えています。
 
建物の形に呼応するように道も直線ではなく緩やかに曲がり
そこにできた余白の空間にポストや植栽、ベンチなど
通りを生き生きさせるストリートファーニチャーが設えてあります。
 
 
 
 
 
 
日比谷シャンテ前から帝国ホテルへ抜ける道
 
通り自体は直線ですが
波打つような曲線上に植栽とベンチが配されて
まるで曲がりくねる道のように演出されています。
 
仲通りに続いて
ここにもゆったりを歩くことのできる歩行者空間の実践が見られます。
 
まだまだ、始まったばかりの歩行者空間の実践ですが
これからも着実に結果を積み重ねて
時代にふさわしい人間中心の豊かな通りが広がることを期待しています。